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オペラ夏の祭典2019-20 Japan-Tokyo-World

『ニュルンベルクのマイスタージンガー』ザルツブルク・イースター音楽祭公演レポート

2020年が始まり、上演まで約半年となった『ニュルンベルクのマイスタージンガー』。2019年4月、ザルツブルク・イースター音楽祭で初演を迎えた際に現地で取材をした、中田千穂子氏によるレポートを公開!

取材・文/中田千穂子(音楽評論家)
(東京文化会館広報誌『音脈』Vol.76より)

 

 

オペラ『ニュルンベルクのマイスタージンガー』は、リヒャルト・ワーグナーが完成させた唯一の喜劇である。クリスティアン・ティーレマンは、このオペラを“パーフェクトな宥和と和解及び寛容への意思表明であり、現代の最もアクチュアルなテーマを扱った作品である”と記している。因みにティーレマンはこのオペラを既に約50回指揮している。今年のザルツブルク・イースター音楽祭の開幕公演『ニュルンベルクのマイスタージンガー』で圧倒的な成果が得られたのも、特にティーレマンの指揮による所が大きい。第1幕の前奏曲は幕を下ろしたままで演奏され、冒頭のマイスターゲザング(編集部注:ゲザングとは、ドイツ語で歌・歌曲の意)の動機からしてドレスデン・シュターツカペレ(編集部注:ドレスデン州立歌劇場専属オーケストラ)の壮麗なハ長調の響きが心を奮い立たせた。ティーレマンの指揮は、喜劇的にアクセントを際立たせるパロディー風な場面であれ、第3幕の前奏曲の初めにチェロの演奏で痛ましい諦念を表す箇所であれ、常に音の響きと音楽的なドラマトゥルギーとのバランスが見事に保たれ、多様な色彩とテンポ感と共にワーグナーの唯一の喜劇を存分に楽しませた。[ザルツブルク祝祭大劇場、4月13日プルミエ(編集部注:初演)所見]

 

現在ニュルンベルク州立歌劇場の団長と演出家を兼任しているイェンス=ダニエル・ヘルツォークの演出の根底となるアイディアは、劇中劇である。舞台左右の豪華な入口やロージェ(編集部注:ボックス席)は、伝統的なゼンパーオーパー(編集部注:ドレスデン州立歌劇場の通称)を模したものである。また、ハンス・ザックスは同オペラ座の団長兼演出家であり、時折照明係を担当する事を余儀なくされている。ヘルツォークは様々な視点に立ってこの歌劇場を支離滅裂な人間社会のメタファーとして、また、芸術により夢がもたらされる場として、この喜歌劇を演出した。幕開けでは、カタリーナ教会の大伽藍を想わせる舞台でルネッサンス時代の衣裳を着た会衆たちが歌う鮮烈なコラールを聞き、深い感動が引き起こされた。やがて幻想が断ち切られ、回り舞台を用いて舞台場面が迅速に転換され、次第に現実味を帯びたものとなる。(美術:マティス・ナイトハルト、衣裳:シビル・ゲデケ)

 

「フリーダのモノローグ(にわとこのモノローグ)」は、ハンス・ザックスがヴァルター・フォン・シュトルツィングの歌声から「古い響き、それでいて新しい響き」を聞き、この若者を仲間に迎え入れようと決心する筋書の重要な転回点である。ゲオルク・ツッペンフェルトが思考の明晰さとピッタリの歌唱と演技で表現し、深い感動が得られた。クラウス・フロリアン・フォークトが立派なヘルデンテノールの声で、エロスと無鉄砲さに満ちたこの若者を見事に歌い演じた。ファイト・ポーグナーのヴィタリユ・コヴァリョフが柔らかな暗いバスの声で歌手役者としての権威を示した。ベックメッサーはここではユダヤ人のカリカチュアではなく、因習にとらわれたマイスタージンガーたちの代表者なのである。ベックメッサーの「セレナーデ」で、アドリアン・エレートがエヴァの心をつかもうとリュートをつま弾きながらコミカルに歌い演じ聴衆を魅了した。
この国際共同制作が東京のアート・シーンを牽引する大きな役割を果たす事を祈って止まない。

 

※編集部捕捉
ザルツブルク・イースター音楽祭公演に出演したキャストの内、ベックメッサー役のアドリアン・エレートが、日本公演にも出演いたします。
また日本公演では、本プロジェクトの総合プロデューサーでもある大野和士が指揮を務めます。

 

 

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