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オペラ夏の祭典2019-20 Japan-Tokyo-World

『ニュルンベルクのマイスタージンガー』トーマス・ヨハネス・マイヤー インタビュー

トーマス・ヨハネス・マイヤー(ハンス・ザックス役) インタビュー
ーワーグナーのオペラのような崇高な芸術が今こそ社会に必要ー

 

昨年はコロナ禍により、多くのクラシックコンサートやオペラが公演中止となった。世界にはいまだ大きな不安やストレス、分断や争いが広がっている。
でもそんな時こそ「ワーグナー作品のような崇高な芸術が社会には必要」と語る、オペラ歌手のトーマス・ヨハネス・マイヤーさん。
ワーグナー作品の魅力、今の時代にオペラ歌手として活動する思いを伺った。
【2021年3月11日 朝日新聞夕刊東京本社版 広告特集「ネクストステージ」インタビューより一部改稿】

 

トーマス・ヨハネス・マイヤー

聴くほどに発見があるワーグナーのオペラ

 ドイツ生まれのマイヤーさんは、ワーグナーをこよなく愛している。レパートリーは幅広いが、近年はとくにワーグナー作品を中心に精力的に公演を続けてきた。
 「ワーグナーのオペラには情熱があふれていて、最初の一音からその世界に引きずりこまれます。聴けば聴くほどに新しい発見があります。私は『ニーベルングの指環』を200回以上歌ってきましたが、一度も退屈を感じたことがありません」
 実はマイヤーさん、若い頃はポップスやロックを歌っていた。ところがある時、のどを痛めて医師からクラシックをすすめられる。それからクラシックを歌うようになり、ワーグナーの音楽のとりこになったという。
 「ワーグナーは自分の作品を総合芸術と呼び、脚本も歌詞も自分で書きました。彼の作品は音楽的にすばらしいだけでなく、哲学や歴史、宗教の要素も色濃い。彼はニーチェやショーペンハウアーの影響のもと作品を書き、最後に完成した『パルジファル』ではキリスト教と仏教が融合したような世界を表現しています」
 そんなワーグナー作品だけに、日本人のなかには難解な印象をもつ人もいるようだ。そんな人にこそおすすめしたいのが「ニュルンベルクのマイスタージンガー」だ。正味の上演時間が4時間半を超える大作だが、ワーグナーのなかでは最も親しみやすい作品とされている。
 「『ニュルンベルクのマイスタージンガー』は、ワーグナーのオペラのなかでも特別な存在です。唯一の喜劇であり、ドラマチックな人間ドラマです。コメディーやユーモアの要素もあり、ハ長調で書かれているので音楽的にも明るくポジティブです」

 

中世の職人たちによる歌と愛の人間ドラマ

 ワーグナーのオペラは神話や伝説を題材にしたものが多いが、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は史実をもとにしている。マイスタージンガーとは中世のドイツにおいて、職人の親方でありながら音楽家として師匠格の能力をもつ人物に与えられた称号。マイヤーさんが演じるハンス・ザックスもその一人で、実在の人物だ。作品では個性的な職人が多数登場し、歌や愛をめぐる人間ドラマが繰り広げられる。
 「ワーグナーはザックスに自分の人生や思いを投影していて、この作品には彼の芸術観が詰め込まれています。彼が目指していたのは階級のない世界で、マイスターたちの音楽こそが最も崇高なものだと考えていました。そして社会の争いは芸術によって解決されるべきで、芸術こそが人類の救済につながる、との思想がこの作品には込められています」
 その思いは、パンデミックにより世界に不安や分断、争いが広がっているなか、オペラ歌手として活動を続けるマイヤーさん自身のものでもあるのだろう。
 「残念なことに今、私のまわりの友人も仕事がなくなり、音楽を諦めざるを得ない現実があります。それだけにまだ歌える機会をいただけている私は、芸術が人間にとっていかに重要なものであるかを示す責任があると思っています。オペラのような芸術は、国境を越えて人を結びつけます。私は芸術によって人々の心が一つになり、それが平和な社会へつながると信じています。これからもそんな思いを込めて、オペラを歌い続けていきたいと思います」
 とはいえマイヤーさん自身も、ヨーロッパで予定していた多くの公演が中止となっている。その分、自由な時間が増えたため、家族と過ごす時間を大切にし、東京公演に向けてじっくり役作りに取り組むという。
 「東京は大好きな街です。昨年、東京で初めてザックスを演じる予定だったのですが、コロナの影響で中止になってしまいました。それだけに公演を心から楽しみにしています。ぜひたくさんの日本の方に、見に来ていただきたいですね」

 
 

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